2011年2月20日日曜日

廃校転じて「福祉」となす リフォームで列島再改造
三度目の奇跡 第2部 かじを切れ(4)日経


 高齢者向け賃貸住宅「ヘルスケアタウンにしおおい」はJR西大井駅から徒歩4分の好立地にある。にもかかわらず利用者負担が月額約15万円と他の施設より5万円近く安いのには訳がある。
【映像】「高齢化先進国の日本から学べ」中国の視察団が都内の介護施設を訪問
【映像】「高齢化先進国の日本から学べ」中国の視察団が都内の介護施設を訪問
 48人の高齢者が暮らす3階建ての建物は、2007年に廃校になった東京都品川区立の原小学校だ。品川区が社会福祉法人の「こうほうえん」(鳥取県米子市)に無償で貸している。約10億円の改装費をかけ、教室を2つに仕切って42の個室に、広い理科室は食堂に、トイレは浴室にした。
 この地域で同規模の物件を借りれば賃料は年間2000万円を下らない。「家賃がタダでなかったら東京には進出できなかった」(こうほうえん理事長の広江研=70)

■治安と介護両得
 12日、中国の介護研究の第一人者、清華大学建築学院教授の周燕ミン(53)がこうほうえんを訪れた。廃校再利用の話を聞いた周は「そんなアイデアがあるのか」と目を輝かせた。
 一人っ子政策などの影響ですでに65歳以上の人口の割合が8%を超える中国にとって、少子高齢化で世界の先頭を走る日本の介護事情は手本になる。10年後に日本を上回る高齢化が予想される韓国の関係者も、こうほうえんを視察に来た。
 東京都によると、都内で本格的な介護が必要な人の数は現在約2万人だが、25年には18万人に膨らむ。介護施設の不足は目に見えている。一方、全国で未利用のまま放置されている廃校は1015校。地元は治安悪化を懸念している。廃校を介護施設に転用すれば一石二鳥だ。
海外から視察も訪れる「こうほうえん」は廃校を再利用する(東京都品川区)
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海外から視察も訪れる「こうほうえん」は廃校を再利用する(東京都品川区)
 06年には新潟県の長岡福祉協会が港区の小学校を、昨年3月には岡山県の新生寿会が港区の自治大跡地を介護施設に替えた。都市部より早く高齢化が始まった地方の福祉法人は豊富な介護ノウハウを持つ。そんな地方の実力派が廃校を使って続々と東上している。
 明治維新と戦後復興。2度の奇跡を経た日本にはかなりの資産がたまっている。廃校を含め、09年末時点で国と地方が抱える不動産は465兆円。企業が保有する不動産も08年末時点で471兆円に及ぶ。
 再利用できない資産の放置は思わぬ負担を招く。熊本県は12年度から発電専用の県営荒瀬ダムを撤去し、川を自然の姿に戻す。大型水力発電所の撤去は日本初だ。老朽化で発電を止めたが、放置すれば毎年3億円の維持費がかかる。悪臭などの苦情も出ており、県は撤去の道を選んだ。
 日本経団連系調査機関の推計では、10年に11兆円だった道路や下水道など社会資本ストックの維持管理費は30年に18兆円に膨らむ。撤去の決断が遅れれば積み上げたストックに押しつぶされる。

■跡地で技術開発
 企業は大胆に動き出した。東芝の日野工場(東京都日野市)。事業再編で携帯電話機の生産をやめた後、その他の事業も別の事業所に移し、10万平方メートルの大工場がもぬけの殻。再開発や売却を検討している。
 「不稼働資産を一掃しろ」。社長の佐々木則夫(61)の厳命で、東芝は「工場の整理整頓」(執行役専務の谷川和生=61)に乗り出した。縮むだけではない。工場跡地を使って太陽光発電や電気自動車、先端の省エネ技術の実験場となるスマートコミュニティーを造る構想も温めている。
 国や地方にも努力の余地がある。日本の総住宅数の13%にあたる757万戸の空き家を家賃負担に苦しむ低所得層のために使えないか。半分が未利用になっている分譲中の工業団地(1万5400ヘクタール)をベンチャーや外資に開放できないか。
 知恵を絞り汗をかいてストックを生かす。成熟国家にふさわしい列島のリフォームだ。
=敬称略
(「三度目の奇跡」取材班)



廃校を利用し 今のニーズを見出すこれがリノベーション変革